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2017.12.03
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12月2日の以下の記事に沖縄タイムスに、弁護士小口幸人のコメントが掲載されました。

路上寝3度で検挙/豊見城署方針/事件・事故の防止狙う
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/178226

 

 

紙面の都合だと思いますが、記者に指摘したことがほとんど掲載させていませんでしたので、すこし補足させていただきます。基本的に、沖縄県警豊見城署がしようとしていることは「違法」であり、考え方自体に「重大な問題」があると言わざるを得ません。
(記者から聞いた点も合わせて書きます)

 

1 問題の概要

2017年1月~11月までの間に、酒に酔って縁石を枕に県道に足を投げ出して眠るなどの路上寝が68件確認されたそうです。「泥酔者を自宅に送る」「家族に連絡」「署で保護」などの対応に警察官が拘束され、その間、他の事件・事故の対応ができないので、沖縄県警察豊見城署は、2017年1月から「路上寝警告書」なるものを交付しているんだそうです。

そして、「路上寝警告書」を3回以上渡されたら検挙の可能性があり、逮捕するかどうかは反省の有無など「ケースバイケース」で決めるとのことです。検挙・逮捕には、道路交通法の罰金5万円以下(道交法76条4項違反)を適用するそうです。

 

 

 

2 違法の疑い

道路交通法は、「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的」につくられています。酔っ払い対策が目的ではありません。

そして、76条4項1号は「道路において、酒に酔つて交通の妨害となるような程度にふらつくこと」をしてはならないと定め、2号は「道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつていること」をしてはならないと定めています。いずれも最大罰金5万円の罪です。

 

この記事が想定している、「酒に酔って道路で寝る」行為はそもそも処罰の対象になっていません。なぜなら、そもそも道路交通法は、酔っ払い対策の法律ではないからです。

76条4項1合は、酔っ払ってふらつく場合だけですから、寝ているケースに適用することはできません。

76条4項2号は、交通の妨害となるような方法で寝そべることを禁じていますが、あくまでも「交通の妨害となるような方法」の場合だけです。そして、「交通の妨害となる方法」について、警察が実務の参考にしている「執務資料 道路交通法解説」は要旨、次の様に記しています。

 

「交通の妨害となるような方法」とは、寝そべる行為が交通の妨害となるおそれがあるような方法のことであり、交通の状況、道路の場所等との対比において判断される。したがって、例えば昼間は雑踏するが夜間は人通りの絶える歩道の端において寝ていても交通の妨害となるような方法で寝そべったことにはならない。歩道の中央に寝そべっている場合、歩行者の通行の可能性がある限りは交通の妨害となるような方法で寝そべったということになる。」

 

今回の件の対象は、深夜、酒に酔って道路で寝てしまっている人です。多いのは、道路沿いの建物を背もたれにして寝ていたり、道路の隅っこ建物や縁石沿いに寝ている場合でしょう。
酔っ払いの道路寝のうち、76条4項2号で該当するのは、その寝方が、交通の状況や道路の場所と照らし合わせて交通の妨害となるような場合だけです。さらに、全ての犯罪には原則として「故意」が必要ですから、本人が、その寝方が交通の妨害となるような方法であることを認識した上で寝た必要があります。

例えば、自宅だと勘違いして寝た場合などは、罪に問えないでしょう。

 

そうすると、酔っ払いの路上寝のうち、76条4項2号に該当するのはほんの一部でしかありません。それにもかかわらず、路上寝をしている人に「路上寝警告書」なるものを交付し、それが3回以上になったら検挙するなどとするのは、違法となる可能性が高い行為と言うほかありません。

 

 

 

3 根本的な間違い

警察は、法律に基づいて法を執行する機関です。今回の件は、警察官が酒に酔っている人にどう対応するか、特に車にひかれそうな形で寝ている場合にどう対応するかが問われています。
そうすると、参照すべき法律は道路交通法ではなく、「酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」です。

なぜなら、同法の目的は、「酒に酔つている者の行為を規制し、又は救護を要する酩酊めいてい者を保護する等の措置を講ずることによつて、過度の飲酒が個人的及び社会的に及ぼす害悪を防止し、もつて公共の福祉に寄与すること」だからです。

同法3条は、警察官に対し、「酩酊めいてい者が、道路、公園、駅、興行場、飲食店その他の公共の場所又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物において、粗野又は乱暴な言動をしている場合において、当該酩酊めいてい者の言動、その酔いの程度及び周囲の状況等に照らして、本人のため、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当の理由があると認められるときは、とりあえず救護施設、警察署等の保護するのに適当な場所に、これを保護しなければならない」として、酔っ払いの保護義務を課しています。

 

恐らく、沖縄県警豊見城署の警察官は、自分達がこれまでしてきた、「泥酔者を自宅に送る」「家族に連絡」「署で保護」という行為が、同法3条に基づく義務の履行であることを自覚していないのだと思いますが、警察が、ときに酔っ払いの意図を反してでも一時保護ができているのは、法律が警察に権限を与えているからです。

よって、もし、酔っ払い対策のために、上記のような保護では足りず、新たな対策が必要ならば、警察庁から同法の改正を法務相にあげてもらい、法律を改正し、正に、酔っ払って路上で寝る行為に対し罰則を科せるようにするのが法治国家のあるべき姿です。

 

ただ「忙しい」からという理由で、何とか制裁を科して止めさせようと思い、検挙の口実にできそうな法律を探し、道路交通法の罰金5万円以下の罪をもちいて懲らしめてやるなどというのは、法の濫用であり、率直に姑息でセンスが悪いと言わざるを得ません。

法律は、その目的と趣旨を考慮して、法が定める目的を果たすために使わなければならないという、「いろはの「い」」を忘れている現れです。

 

 

 

4 重大な間違い

この記事に現れている最大の問題は、警察官が記者に対し、逮捕するかどうかは「反省の有無」等で決めると答えていることです。これは重大な問題発言です。

警察は、人を反省させる機関ではありません。それは警察の役割ではありません。警察の責務は「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ること」(警察法2条)です。

 

そして、警察が逮捕するには、最低限、次の2つの要件が満たされていなければなりません。

ア 被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があること
イ 被疑者が逃亡するおそれがある 又は 罪証を隠滅するおそれがあること

 

酔っ払いの路上寝の場合、寝ているところを警察官が現認しているわけですから、証拠を隠滅する術がありません。よって、罪証隠滅の恐れはありません。また、どんなに悪質で何百回と繰り返しても上限罰金5万円なのですから、仕事や生活をすてて逃亡する恐れもありません。
よって、どう見ても、上記イが充たされないので、逮捕などできないし、できないのにしたら違法(逮捕罪という犯罪)です。

このように、酔っ払いの路上寝のうち、交通を妨害する方法で行われている場合があったとしても、逮捕の要件は充たされないのですから、逮捕しようと考えていること自体がまず問題です。

 

そして、沖縄県警察豊見城署は、「反省の有無」という逮捕の要件ではないことを重視して、逮捕するかしないかを決めようとしているのですから、更に問題です。

上記のとおり、反省の有無は、逮捕の要件ではありません。せいぜい、反省している場合は証拠隠滅しなくなりそうという程度のかかわりしかありません。しかし、そもそも路上寝自体を現認されており、証拠を隠滅する術がないのですから、今回は関係ありません。

 

それにもかかわらず、警察官が堂々と、反省していたら逮捕しないが、反省しないなら逮捕するかというように、記者に対して答えているのですから、事態は深刻です。

逮捕の要件という法律を横において、まるで自分が裁判官にでもなったかのように、人が反省しているかどうかを見極めて、反省していないなら制裁を科すというように思考している警察官がいる、しかも恐らくこれは氷山の一角ということです。

刑事司法手続きにおいて、警察官は、裁判に必要な捜査を行い、要件が充たされ令状が発布されたら逮捕し、裁判所の決定に従って身体を拘束する機関でしかありません。

そして、逮捕という手続きは、上記の要件が充たされるときに、証拠隠滅を防いで捜査を行い逃亡を防止するために最大72時間拘束できる手続きにすぎず、決してそれ自体「罰」ではないのに、逮捕を、人に対する「制裁」のようにとらえ、「懲らしめる」ために警察の一存で科そうという考えが根っこにあるのですから、そのような警察官は、警察の何たるかを根本的にはき違えていると言わざるを得ません。

 

 

 

 

5 他の場面でも見えた、警察の役割のはき違え

沖縄県警が、自らの使命をはき違えていることが顕在化したケースとしては、以下の「排ガス嫌なら抗議やめろ」という、沖縄県議会における警察部長の答弁があります。

=掲載情報=『「排ガス嫌なら抗議やめろ」警備部長 辺野古の排除対策容認』

仮に、違法な行為をしている人がいたとしても、警察には「罰」を加える権限はありません。そんなことを法律は許していません。

「逮捕」という、別の目的の行為を「制裁」として用いることは論外ですし、上記のように、「排ガスを吸わせる」という行為をするのも論外です。

 

 

 

6 警察は法律に従って行動することにこそ価値がある

冒頭の酔っ払いの路上寝など、警察官が多忙なのはわかります(もっとも事件は減り、警察官は増えているのですが)。しかし、警察官の核心的な価値は、法律に基づいて法を執行することにあります。

このことは、頭の体操をしてみるとわかります。

目的のために必要なら有形力(腕力)も使う、大人数で組織されている、上命下達で上司の命令が絶対、武器ももっている、日頃から身体を鍛えている、さてこのような特徴をもつ組織と言えば何でしょうか?

答えは、警察と暴力団です。

 

しかし、警察と暴力団には大きな違いがあります。それは、警察は法律に基づいて行動しており、暴力団は法を犯しがちだということです。

もし、警察が法律に基づかずに有形力を使う組織になり下がるなら、世の中は暗黒です。なぜなら、警察を取り締まる実力組織は存在しないからです。私は、警察官になるような人は、正しいことをしたくて警察官になっているのだと思います。彼らには彼らなりの正義があることもわかります。

 

しかし、法律がそのような行為を許しているかどうか、そんな権限があるかどうかを謙虚に顧みなくなったら、警察と暴力団は五十歩百歩になってしまいます。
警察官の方々を尊敬しているからこそ、そのような警察は見たくありません。ぜひ沖縄県警には、そもそも警察の使命は何なのか、警察官にできることは何なのか、初心に立ち返ってもらいたいと思います。