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コラム
2017.03.25
コラム

籠池氏を証人喚問した以上、真実が明らかになるまで、関係者を次々証人喚問すべきだと思います。しないのであれば、それは法的にも余りに不公平不相当です。その理由は、籠池の証人喚問は以下のとおりであったからです。

 

1 既に刑事訴追される具体的な恐れがあった籠池氏に対して行われた

2 今回の件に関わる人物の中で、最も私人であること

3 関係者の中で「最初」の証人喚問であったこと

4 「総理を侮辱した」という理由での招致であったこと

 

以下詳述します。

 

A 証人喚問ってどんな制度なのか?刑事訴追との関係は?

証人喚問とは、

「議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律」

に定められた制度です。その要件としては、「各議院から、議案その他の審査又は国政に関する調査のため、証人として出頭…を求められたときは、」とししか定められていません。国権の最高機関である国会に幅広い裁量を与えているのだと思います。

 

ポイントは、刑事裁判と違い、誰かの行為が罪に当たるか否か、違法であるか否かを明らかにする制度ではないということです。

安倍総理大臣は、「不正や刑事罰に関わることをやっていないのに証人喚問に出ろというのはおかしな話だ」とおっしゃられていますが、法律家から見ると、恐縮ながら総理の理由付けには根拠がないと言うしかありません。

 

他方、証人喚問といえど、上記のように法律に基づく制度なので、憲法への配慮が必要です。

日本国憲法38条は、次のように定めています。俗に言う黙秘権の定めです。

「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」

 

この憲法に抵触しないよう、「議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律」は、刑事訴追の恐れのある事項については証言拒否ができるようになっています。籠池氏が「刑事訴追の恐れがあるので証言を拒否します」としたのは、憲法に根拠のある法律上の権利を行使した行為です。

※なお、黙秘権を実質的に保障するため、黙秘したことをもって不利益に評価してはならないと解されています。よって、籠池氏の上記証言拒否をもって不利に評価してはなりません。この点は少し注意が必要です。

 

したがって、誰かを証人喚問するかしないかを判断するときに、その人が刑事訴追を受ける恐れがあるか否かは注意する必要があります。刑事訴追の恐れのある方は、必要性が特に高い場合にのみ喚問するというのが、人権を尊重した姿勢ということができます。

 

今回の証人喚問は、助成金詐欺という「刑事訴追される具体的な恐れがある」籠池氏に対して行われたわけですから、特に調査する必要が高かったいうことになります。そうである以上、この件について、刑事訴追される具体的な恐れが「ない人」の喚問は躊躇することなく行われるべきですし、「背任罪」等に問われる恐れがあったとしても、必要性が高いのですから、躊躇することなく行われるべきしょう。

例えば、安倍総理が籠池氏に100万円献金していたとしても違法ではない、という話がされます。そのとおりですが、そうである以上、証人喚問を行うハードルは低く必要性が低い場合でも実施されて問題ないということになります。安倍総理の「不正や刑事罰に関わることをやっていないのに証人喚問に出ろというのはおかしな話だ」という発言は、恐縮ですが全く逆ということになるでしょう。

 

 

B 関係者の中で最も私人であったこと

公人か私人かという議論が流行っているようですが、マスコミが盗撮した写真を雑誌に載せた場合等ではありませんので、こういう議題設定は相当ではないでしょう。他方、証人喚問が、国政の調査等のために行われる制度であることからすると、こういう議論はなりたつと思います。

現に「公務員」や「公職」にある人であれば比較的安易に証人喚問してもよく、以前ついていた人はその次に証人喚問してよいが、過去も現在も公職や公務員やであったことののない人(以下では私的な人といいます。)への証人喚問は、前の2つの場合より慎重に行われるべきだという議論です。

 

今回の証人喚問は、今回名前のあがっている関係者の中で、最も私的な人である籠池氏に対して行われたわけですから、この観点からも特に調査する必要が高かったということがいえます。よって、公務員や元公務員、あるいは現在公職についている人や以前公職についていた人の喚問は躊躇することなく行われるべきでしょう。もちろん、総理大臣夫人である安倍昭恵氏への証人喚問も躊躇すべき理由は見あたりません。

 

 

C 一番最初の証人喚問だったことも重要です

裁判で尋問を行う場合、どういう順序で行うかは慎重に検討されます。

最初の尋問で、特定の人の名前が出てきて、その人への尋問を実施する必要性が高まることもありますし、そこで食い違った話が出てきたときに、「最初の人にこの点だけ再度聞いてみましょう」となることもあります。

なぜなら、偽証罪の制裁下における証言は、一般的に他の供述より信用性が高いと考えられていますので、最初の人の証言で生じた疑念は同じく証人尋問において明らかにする必要があり、陳述書における記載とか、記者会とか、参考人招致などの、偽証罪の制裁下のない方法では明らかにならないからです。Facebookへの投稿では全然足りないことは言うまでもありません。

 

このように、最初に誰かを証言させた結果、他の方に証言してもらう可能性が高まるということは、一般的に起こりうることです。現在、多くの人が、あの人とあの人とあの人の話を聞く必要があると考えているのは、まさにこの経験則を裏付けています。

逆に、最初に証言してもらうときには、こういう経験則はあてはまりませんので、証言してもらうかどうか、それとも参考人招致でよいか(裁判では陳述書の提出だけにとどめるか)は慎重に検討されます。

 

今回の証人喚問は、関係者の中で、一番最初の証人喚問でした。そこで様々な人に関する新しい話が出てきたのですから、二人目、三人目、四人目を証人喚問する必要性が高まりました。必要性が高まった以上、二人目以降を喚問を躊躇すべきではないでしょうし、二人目以降を喚問した結果、再度籠池氏に証言してもらう必要性が高まるなら、それも躊躇する必要はないでしょう。

 

 

D 「総理を侮辱した」から証人喚問を実施したことは恐ろしい

今回の証人喚問は、籠池氏が安倍総理を侮辱する発言をしたとされて行われました。このことは、自民党の国対委員長がテレビカメラの前で明確に言及したので明らかです。

これが、「議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律」が定める「各議院から、議案その他の審査又は国政に関する調査のため、証人として出頭…を求められたとき」に該当し、あるいは正当なのかは正直疑問ですが、国権の最高機関である国会に幅広い裁量が与えられている以上、違法無効ということはないのでしょう。

 

ただし、上記のように要件に該当するか疑問が残る状況下で証人喚問を行うほど、今回の森友問題事件について真実を明らかにする必要性が高いのですから、この件について他の人への証人喚問を躊躇してはならないということになります。いまさら、上記の要件にあたるか否かを議論するのは、本件では不相当でしょう。

 

証人喚問を実施するか否かは、圧倒的議席数を誇る自由民主党の腹一つという状況です。その力は、国民から委ねられたものですから、恣意的に使うこと許されません。そもそも今回の件は、国有地売却金額の非公表や文書の破棄など、内閣の落ち度によって生じています。国会において明らかにされるべきでしょう(その上で刑事事件としての捜査も行われるべきでしょう。)。

 

ちなみに、国有地が相当な金額で売却されたのか、それとも何らかの背任行為があったのかは、国有地が国民の共有財産であり、その売却は公平公正に行われなければならないので「国政に関する調査」の観点で証人喚問を行うに相当な事項でしょう。

さらに、安倍総理大臣が、「私や妻が関係していたということになればこれはまさに私は間違いなく総理大臣も国会議員も辞めるということははっきりと申し上げておきたい」と国権の最高機関である国会で答弁したわけですから、この答弁が真実であるか否かを明らかにすることも、「国政に関する調査」として相当でしょう。

さらに、内閣総理大臣夫人については、法律上の立場が明確ではなく、また様々な行為を規制する法律の要否や、仮に問題があった場合の法的・政治的責任をどうするのかなどを検討する必要があるでしょう。よって国会の「議案」に関する調査のためにも、今回なにがあったのか、なかったのかを明らかにする必要があるでしょう。

 

 

余談ですが、「総理を侮辱した」という理由で、不出頭にすら制裁のある証人喚問を実施することは、戦前の不敬罪すら想起させる非常に不相当な行為であったと考えます。しかも、それを堂々とテレビカメラの前で与党の国対委員長が言及してしまうという空気が非常に恐ろしいと感じます。内閣総理大臣を、戦前の絶対権力者であった天皇と同視するような空気があるのであれば、それは、余りに危険だと感じます。

上記のような判断が、果たして現在の憲法に照らして相当であったかという法律上の問題も、森友問題関係の諸々のことが明らかになった後でもいいので、議論されるべきだと思います。