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コラム
2016.04.24
被災者・被災地支援

13052541_829995230438049_1296417151_o私は、東日本大震災のときに、岩手県山田町と岩手県田野畑村の災害弔慰金支給審査委員会の委員を務め、100件以上の審査に携わりました。

 

災害関連死(震災関連死ともいいます)については、東日本大震災で多くの問題が指摘されています。正直、時期尚早の面もありますが、いまのうちに関係者の方に知っておいていただきたい、災害弔慰金の支給金額の問題について、コラムを書いてみます。
※審査基準等については、後日書きたいと思います。

 

 

1 既に関連死12名

 

熊本地震では、既に、関連死が12件出ていると報じられています。

東日本大震災で発生した3000件を超える関連死を国が集め、しっかりとした災害対策を講じていたならば、1件でも減らせたのではと思わずにはいられません。

 

「熊本地震 震災関連死が12人に」 

毎日新聞2016年4月23日 http://mainichi.jp/articles/20160423/k00/00e/040/192000c

 

南阿蘇で家屋下敷きの69歳女性

熊本県は23日、熊本地震の震災関連死とみられる死亡者が1人増え、12人になったと発表した。この1人は16日の地震により、同県南阿蘇村で家屋の下敷きになり、21日に死亡した女性(69)。村が22日に発表し、県に届け出ていた。地震による直接の死者48人を含めた犠牲者は計60人になった。

県は警察などが遺体を確認する「検視」を経たケースを直接死、それ以外を関連死とみられる死としている。【中村清雅】

 

 

2 災害関連死の審査手順

 

災害関連死であるかどうかは、市町村が判断します。明らかに災害関連死であると判断できるのであれば、審査委員会等を開かずに認定して構いません。

他方、明らかに災害関連死であると認定できる事例以外は、弁護士や医師などで構成された審査委員会を設置し、そこで審査することになります。
間違っても、審査委員会を設置することなく、災害関連死ではないという判断がされてしまうことがないよう注意が必要です。

 

 

3 支給金額についての問題のある運用

 

さて、冒頭にお話しした金額の件です。

災害により亡くなられた場合、ご遺族の方に災害弔慰金が支給されます(恐らく赤十字等からの義援金も支給されます)。災害関連死の場合も同様です。
主たる生計維持者が亡くなった場合は500万円、その他の場合は250万円が支給されます(災害弔慰金の支給等に関する法律施行令1条の2)。

 

ところが、この「主たる生計維持者」であるかどうかの判断が、非常に不当なものとなっています。例えば、次の世帯でAさんが死亡した場合、現在の運用では250万円しか支給されません。

 

三人ぐらしの世帯 所得はAさん(1000万円)、Bさん(150万円)、Cさん(0円)

 

私はこの世帯のAさんは主たる生計維持者だと思いますが、そうではないと扱われてしまいます。その原因は、昭和50年1月29日社施第17号厚生省社会局長通知という古い通知に基づいて運用されており、東日本大震災後、ときの厚生労働大臣が見直しを名言したのに満足な見直しがされていないからです。

 

昭和50年1月29日社施第17号厚生省社会局長通知
この通知は、主たる生計維持者を次のようにしています(読み飛ばしても大丈夫です)。

社会通念上、死亡者が受給遺族の主たる扶養者であったと見られる場合で、かつ、受給遺族に収入がない場合又は受給遺族の収入が所得税法(昭和40年法律第33号)第2条第1項第33号ロに規定する控除対象配偶者に係る所得金額の制限を受ける限度(昭和50年1月現在、この額は70万円である。)以内の場合をいう

 

この通知に基づくと、一つの世帯に、年収103万円を超える(昭和50年以降の所得税法の改正で金額が変わりました)の人が二人以上いた場合、その世帯には「主たる生計維持者」は存在しない、という判断になります。103万円というのは、配偶者控除の基準とされているあの金額です。

上記のAさんのケースでは、Bさんが103万円を超えて稼いでいるため、弔慰金が250万円になります。

この運用が別の意味でもおかしいことは、例えば次の世帯でDさんが亡くなられた場合を考えるとわかります。

 

三人暮らしの世帯 所得はDさん(130万円)、Eさん(100万円)、Fさん(100万円)

 

このケースでは、EさんとFさんはいずれも103万円未満なので、Dさんは主たる生計維持者、ということになります(103万円に届かないように調整して働いている方は多くいます)。

 

 

私はこの厚生省社会局長の通知は、法令の解釈を誤った違法な事務運用であるから、例えば上記のAさんのケースであれば、裁判所に行政訴訟を提起して500万円の支給を受けることが可能だと考えています。

しかし、残念ながらそのような判例は存在しないため、現在もこの運用が続いています(満足に争われたケース自体がないと認識しています)。

 

その結果、実は東日本大震災でも、広島の豪雨災害でも、実に8割以上のケースでは弔慰金は250万円しか支給されていません(このことは、2014年8月20日に読売新聞が報じています(記事には私が登場します))。

 

 

4 大臣が見直しを名言したにもかかわらず

 

さらにこの問題は、東日本大震災後国会でも問題視されています。
2011年10月24日の衆議院東日本大震災復興特別委員会において、当時野党の公明党石田議員の質問に、当時与党の小宮山大臣は次のように答えていますが、ほんの些細な運用改善がなされただけで、この問題は解決されませんでした。

 

小宮山国務大臣「おっしゃるように、私も、今のこの時代には合っていないのできちんと対応を考えさせていただきたい。ただ、それを政令、省令という形でするかどうかについては検討の中でまた考えさせていただきたいと思いますが、はっきりとわかりやすい形でお示しをしたいと思っています。」

 

 

5 国は早急な見直しを

 

このままでは熊本地震のケースにおいても同様の運用がされる恐れがあります。

ぜひ、政府には早急な見直しをお願いしたいです。